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2009年11月

2009.11.14

カデナ

『カデナ』池澤夏樹 新潮社。
折しも、民主党政権となって初めての米大統領の訪日。本来ならば沖縄の普天間基地の移設問題は避けて通れない論点だが、双方の政治的配慮から先送りされたようだ。米軍基地の大半が集中する沖縄。嘉手納という漢字でなくカデナと書かれるタイトルを持つこの小説の舞台もそのカデナにある米空軍基地だ。時代はそのカデナからハノイに向けてB52爆撃機が飛び立っていた1968年。

主要な登場人物は4人。
フィリピン軍属とフィリピン人の女性の間に生まれたフリーダ・ジェイン。沖縄に駐留する空軍曹長。
フィリピンに住む反米活動家の母から軍の機密漏洩の指令を受ける。B52のパイロット、パトリックの恋人。
嘉手苅朝栄。戦前に一家でサイパンに移民、戦争で両親と兄を失い、米軍捕虜となって帰国。収容所で覚えた英語、運転の技術を生かして基地に出入りする運送業を興し、今は引退して模型飛行機屋の店主。趣味はアマチュア無線。
タカ。5歳の時に母が自殺、異父姉の民子とともに朝栄夫婦に育てられ、その後アメリカ人の養子として渡米するが帰国。ロックバンドのドラムス担当。
安南ことアナンさん。泡盛用のタイ米を商うベトナム人商人として戦前はサイパン、戦後は沖縄に住む。表向きは商人だが、沖縄在住の主目的は諜報活動。
このうちの、阿南さん以外の3人が交互に語り手となって、回想形式でお話が進む。
 沖縄を舞台にしているけれども、沖縄人らしい沖縄人はむしろ脇役で、サイパンやアメリカに住んだ経験から沖縄人としてのアイデンティティからちょっと距離を置いているような二人、そして外から沖縄にやってきた人々。つまり、作者の最近のテーマである「移動する人々」。

サイパン、フィリピン、沖縄の共通点は、太平洋戦争において被災地になったことと、アメリカの支配。そして、この小説内現在の起点である1968年には、アメリカはベトナム戦争の真っ最中だった。
サイパン、フィリピン、沖縄の体験が、今、ベトナムで再現されている・・・心に過去の戦争の傷跡をとどめる3人が、阿南さんに協力して今の戦争に小さなくさびを打ち込むささやかな活動をする・・・米軍の北爆の情報をベトナム側に漏洩するというスパイだ。それも素人のスパイ。

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