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2007.04.11

土人

紀伊國屋書店のPR誌、斎藤美奈子さんの連載があるのでもらってくる(記事はネット上でも読める)。
現在の連載のタイトルは「中古典のススメ」。
古典といえば、古文という時代は終わり、今では漱石・鴎外だって立派な古典。で、ここで扱っている中古典というのは「私が勝手に考えた造語である。古典未満の中途半端に古いベストセラーのことである」とあって、1960~70年代のベストセラーを取り上げて、今の視点で読み直すというもの。第一回は灰谷健次郎の「兎の眼」、第二回は北杜夫の「どくとるマンボウ青春記」。前二回もおもしろかったので、読みたい方は上記のリンクのバックナンバーからどうぞ。
さて、最新号は第三回で森村桂の「天国に一番近い島」。
私は、この本が売れたことは知っているんだけど、実は読んだことがないんだな。私の世代の女の子は森村桂のユーモア少女小説をけっこう読んでいたと思うんだけどね。私も友だちに勧められて「ビジョとシコメ」というのを読んだことはあるんだけど・・・それだけ。
この本、意外なことにけっこう文字がいっぱい詰まっていて、今読んでもけっこう面白いのだそうだ。なのに、改版された最後の文庫版が出たのが1994年で、現在品切れ状態。
その理由は、「土人」。

なんと、サブタイトルが「地球の先っぽにある土人島での物語」であるだけでなく、本文にもきわめて高い頻度で「土人」なる語が登場し、「ポリティカル・コレクトネスに引っかかりまくり」なんだそうだ。
土人の看護婦、ヌーメアの土人、あの土人たちと立て続けに出てくる土人を「先住民」に直せば復刊可能かもしれないが、とあるが、そう簡単でもないだろう。本当はカナカ人とか言えばいいのかもしれない。
それにしても、いつから私たちは「土人」と言わなくなったんだろう。
この本が出た1966年には、まったく違和感のない言葉だった。当たり前に使われていた。しかも、土人っていうのは、先住民族という意味ですらなく、特定の色がついていた。暑くて未開という。アフリカだろうがポリネシアだろうが、南米だろうが、暑そうなところで、色が黒くて、上半身はだかで原始的な暮らしをしていそうな人は全部まとめて土人。人食い人種なんて言葉もあった。人食い人種はまず絶対に土人に決まっていた。

土人、今はまず使わないが、私自身も平気で使っていた時代があったことを知って、愕然とする体験がつい、最近あった。
実家の物置に溜め込まれている昔の成績物を整理していたとき、小学校3年生の時のクラスの文集が出てきた。子どもたちの日頃の作文を担任の先生がガリ版で印刷し製本してくれたものだ。私は何を書いていたのだろう、と目次を見てみたら、作文のタイトルが「土人のやじろべえ」。えーーーっ。
図工の時間に、竹ひごを使ってやじろべえ(今だったらモビールと言うのだろうな)を作ったときに、何をぶら下げるかをみんなが工夫した。私は、筒型をしたマーブルチョコレートの空き箱に土人の顔を描いて「土人のやじろべえ」を作ったと書いているのだ。挿絵に眼がぎょろりとして、唇が厚くて、ちりちりの髪の毛をしたステレオタイプの土人の絵まで描いているよ。そういえばそんなの作ったかなあ。ちっとも覚えていないけど、作文では「うまくできた」ととても満足げだ。
土人の国、土人の踊り、南洋の土人、土人といいつつ、土人なんてお話の世界のキャラクターのように思い描いていたのだろうか。今、私たちは土人の代わりに先住民などの言葉を使うようになってはいるけれど、それでなんか見方が根本的に変わったというものでもないのかもしれない。すくなくとも十把一絡げの土人よりは個別の民族を思い浮かべるようにはなっているかもしれないが。それにしても、明治以来最近まで続いていたアイヌに関する法律も「旧土人法」という名称だったことを思い出さずにはいられない。

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コメント

ううーむ、「土人」がネックになりましたか。昭和40年代はそのへんは問題視されていなかったでしょうから。
「天国に・・」はわたしは高校生の頃に読みました。その当時でもまだ海外旅行が珍しかったし、
「異文化に触れて自分自身を見つめなおす」というよくあるパターンではあるものの、読後感さわやかの女性の成長物語でしたので、とても楽しく読み進んだのを覚えてます。
森村さんご本人も数年前に亡くなりましたね。万年少女みたいな方でした。
それにしても「中古典」というのはさすが斎藤美奈子さん、言いえて妙。
実は最近、吉行淳之介を読もうと書店に行ったらぜんぜん置いてなくて。
彼なんかも「中古典」に入りつつあるのかもしれません。

投稿: ごんふく | 2007.04.11 20:36

新しい言葉の使われはじめは覚えていても、使わなくなった言葉って、いつ消えたのか、わからないことがありますね。
森村桂の他の作品の中ではダントツに知名度の高かった作品が品切れでは、他の作品も、もう流通していないでしょうね。
吉行淳之介もないかぁ。私は福永武彦の小説を探してみて、文庫はもう全然見あたらないのに驚いたことがありました。

投稿: EMY | 2007.04.11 21:38

もともと土人には「その土地の人」という意味しかありませんからね
言葉狩りとは恐ろしいものですね

投稿: ぱらお | 2008.07.24 04:04

ぱらおさん、
こんな忘れられたblogにコメントをどうも。
もともとの土人の意味は、そうだったんでしょうね。それが、ある特定の地域の土人のステレオタイプなイメージと、未開というネガティブなイメージとがくっついていって、「使うな」というようになっていったんでしょうか。
なお、森村桂のこの本が現在品切れとなっている理由はべつに「土人」という言葉に対する言葉狩りではない、この件に関しては斎藤さんの調査不足による勇み足、勘違いというご指摘も頂きました。

投稿: EMY | 2008.07.24 14:54

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