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2006.02.26

わが心の軌跡

『刑事法随想 わが心の軌跡 曲肱の楽しみ』中谷瑾子著(2004)
著者の教え子に当たるシナモンさんから送っていただいた本。
中谷氏は、慶応義塾大学法学部初の女性教授であり、医事法や生命倫理(バイオエシックス)の分野のパイオニアとして活躍された方。この本は、そういった研究の周辺を綴ったエッセイや講演録をまとめたもので、著者の最後の著書となった。表紙カバーを外すと、白地に自筆サインが型押しされた凝った作りになっている。
私が中谷氏の名前を知ったのは、シナモンさんのサイト、「身近なバイオエシックス」を通じてである。生殖医療に関する各国の法など、興味のある話題もあり、ときどき覗かせてもらっていた。昨年、たまたま中谷氏の女性犯罪に関する論文を引用した文章を読む機会があり、こういう仕事もされていたことを知った。

エッセイに取り上げられた話題は多岐にわたる。私は法学にはまったく疎いが、女性の権利に関わる法律にはいくらか関心を持っている。優生保護法(現在は改正を経て母体保護法)について書かれた文章(初出は1983年)もあるが、女性学やフェミニズムの世界での議論と法学者の見解は微妙に重なるところもあれば一線を画するところもあるようだ。日本の刑法には近親相姦の規定がないというのも初めて知った。何故そうなったかの由来の説明があるが、たしかに問題になるのは「近親相姦」というくくりよりは、親による性的虐待として位置づけられるような例だろう。

講演録の中では、らい予防法の廃止にかかわる二題が収められている。
らいに関わる法的規制は、まだ治療法が明らかでなく、強い伝染性疾患と信じられていた明治時代に始まる。戦後、完全に治療可能と言うことが判明していたにもかかわらず、旧法の完全隔離政策が引き継がれ、昭和28年の新法制定時には反対運動もあったが、社会一般の関心を集めることもなかった。その条文は六法全書にも載っておらず、法曹界が関心を持つこともなかったというのも驚く。中谷氏は、この法の問題について法曹として初めて発言した。その後1996年に同法が廃止されたことは記憶に新しい。

いろいろな場でのスピーチが収録されている。ある大学の卒業式のスピーチもある。こんな格調高いスピーチを聴いた卒業生は、一生忘れないだろうなあと、ちょっとうらやましい。

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