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2006.01.13

素数とセミ

正月に映画を見に行ったら、小川洋子さんの『博士の愛した公式』の映画の予告編をやっていた。数の喚起する詩的イメージ。アンソニー・ホプキンスとグウィネス・パルトロウ主演の新作映画『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』も天才数学者とその娘の話、数学ってちょっとブームでしょうか。

『素数ゼミの謎』吉村仁著。
自然数の中でも、素数ってちょっとひねくれ者で気になる存在。しかし、数学上の概念である素数と、生物のセミとなんの関係があるんだ?とこのタイトルを見た時に思った。幼虫時代に17年も地下で暮らす17年ゼミの名前は聞いたことがある。でもその17が素数だっていうのはたまたまじゃないか・・・と。
著者の吉村さん(というより、学生時代のあだ名、ジンベエのほうがしっくり来る)は、数理生物学と進化生物学が専門で、この奇妙なセミの生態の進化を理論的に解き明かした。
彼とは大学の同級なのだけれど、たしか、卒論ではモンシロチョウの研究をしていたのではなかったかな。ひょろっと痩せていて、白衣をひらひらさせて実験室の廊下を駆けていく姿は、さながらモンシロチョウ。しかし、チョウの飛翔について統計などを駆使したその研究は、正直言って、私にはよくわかんなかったんである(汗)。

アメリカには17年ゼミの他に、やはり素数の13年という生育年数を持つ13年ゼミというセミがいる。これらのセミは、アメリカの各地で局所的な大発生を起こし、繁殖期を終えると成虫は死に絶えて、つぎの大繁殖期まで姿を現さない。これはアメリカ全土である年に一気に起こるのではなく、毎年、散発的に違う場所で大発生が決まった周期で起きる。どうしてこんなことがおこるのか、そして、どうしてその年数が17年と13年という素数なのか。

セミの幼虫は地中で木の根の導管から水分と養分を吸収して成長する。その栄養分は薄いので生育速度が遅い。でも、地中にいる限りは外敵からの攻撃から身を守りやすい。
また、局所的な発生を繰り返す理由は、成虫が地上に出てきた時に、遠くまでも行かなくても交尾の相手を見つけやすく、繁殖しやすくするため。
そして、周期的な大発生を繰り返すのは、羽化を同調させた方が、やはり、繁殖成功率が高まるから。
それで、周期を外れた個体は子孫を残すのに失敗し、同じような周期を持つセミがある特定の地域に集中して生育するようになる。

で、問題は、なぜ、17年と13年という素数の生育年数を持つセミがいるかということなんだけれど、おそらく今から数万年前には、13年から18年くらいまでいろいろな年数のセミがいたらしい。しかし、種としての分化が進むと、異種と交雑した時に子孫が残せなくなる。それで、同じ場所に違う周期を持つセミが同時に生まれると交雑の危険性が高まるのだけれど、周期の違うセミが同時に生まれる確率は、「最小公倍数」によって左右されるわけです。すると、15とか、16とか、18とか、約数がいくつもある数どうしの最小公倍数は小さくなり、素数と素数の最小公倍数は、それぞれの積になるためにたいへん大きくなる。
つまり、進化の初期には12年ゼミ、13年ゼミ、14年ゼミ、・・・・・・・、17年ゼミ、18年ゼミが同じように分化したかもしれないけれど、そういった異種交雑と不稔の子孫発生ということを繰り返した結果、もっとも異種交雑を起こす可能性の少ない素数ゼミが生き残ったというわけ。19年ゼミがいないのは、19年は幼虫が生き延びるのに長すぎるからだろうというんだけど、17年も十分に長いと思うけどね。

この本は、年若い読者を対象に書かれていて(帯を見たら世界でいちばん受けたい授業にも出演したとあった)、図版もおおく、とても平易な語り口で書かれている。理論もわかりやすく、しかもその意外な発見は文句なく面白い。ジンベエったら、こんなすごいことやっていたんだね。本の中の著者の写真は、やっぱり白衣を着ていたけど、それなりに横幅も増えて、大人の顔立ちになっていた。

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