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2006.01.27

プリオン説はほんとうか?

福岡伸一著、ブルーバックス。
ここで、この著者の本をとりあげるのは『もう牛を食べても安全か』に続いて2冊目。
前著がおもしろかったで、この本も読んでみた。
狂牛病(BSE)が、異常プリオンタンパク質によって引き起こされる・・・という説はいわば常識のようになっている。だから、狂牛病への感染を避けるには、まず、感染牛を食べないことだけれども、とりわけ、感染牛においてこの異常プリオンが多量に見つかる「危険部位」を避ければよい。また、感染してから発病までの潜伏期の長い病気なので、月例の若い牛には、病原性の異常プリオンタンパク質の蓄積はみられない。
だから、生後20カ月未満の牛のいわゆる「危険部位」を取り除いたものは安全なはず、というのが、日本向けの牛肉輸出再開をゴリ押ししてきたアメリカ側のロジックだったはずだ。もっとも、その「危険部位」の中でも、もっとも目立つ背骨がばっちりとついた肉なんていうのが見つかってしまって、ロジック以前に引き戻されてしまった感があるが。
福岡氏は、ここで、こういった安全性評価の前提となる「プリオン説」そのものを疑ってかかる。
アメリカの科学者プルシナーは異常プリオンタンパクの抽出に成功し、それを狂牛病発生への仮説に結びつけ、結果としてノーベル賞を受賞したが、異常プリオンタンパク質が狂牛病の病原体であることは、いまだにちゃんと証明されてはいない。
感染した人や動物の脳には異常プリオンタンパク質が大量に蓄積され、その脳をすりつぶしたものを与えた時には、感染性が認められるのに、このタンパク質だけを純粋に精製したものには、感染力、すなわち病原性がないのだ。
そこで、著者は、さまざまな研究者のデータを駆使して、アンチ・プリオン説を展開する。
狂牛病にはプリオンによって説明できる部分と、できない部分があり、そのできない部分を説明するに足る別の病原体の可能性を追求するわけだ。
その過程で、どうやら、異常プリオンタンパク質が蓄積していなくても、感染動物には感染性の物質がリンパ組織に存在するらしいということなど、これまでの安全基準を根底からゆるがすような事実が次々明かされる。
狂牛病の病原体は核酸を持つウィルスよりもはるかに分子量の小さい分子量5万程度の分子であり、それは、核酸を持たないタンパク質であるというプルシナーの説も、その根拠を示すデータを再検討していくと、どうもそうとはいえない、ということになってしまう。
で、プリオン説に代わる説として著者が述べているのは「レセプター説」。
病原体はタンパク質ではなく、やはりウィルスで、プリオンタンパク質は、そのウィルスが動物の体内にはいるときのレセプターとして働いているに過ぎないとするもの。そう考えると、正常プリオンタンパク質を持たないノックアウトマウスが、狂牛病の牛の脳を投与されても発病しないというのがうまく説明できる。
また、病原体の性質が変化を起こすという点も、核酸を持つウィルスであれば説明がつく。
しかし、その当のウィルスが発見されてはいないので、これもまだ仮説の段階に過ぎない。とはいえ、いろいろな条件やデータを積み重ねて、それを読み解くことで未知の病原体に迫る思考実験としてもとてもおもしろい。

読んでいてただひとつ気になったのは、「輸血を通して感染性ヤコブ病が伝達されたケース(狂牛病に汚染された牛肉を食べてヤコブ病に感染した患者がそれと知らず血液を供与し、そのドナーが後に脾臓の検査によって狂牛病のキャリアであることが判明した症例)」というところ(p.200。これより前にも、ドナーが同じ使い方がされている個所がある)。ドナーというのは「供与した側」のことだよね。感染したのは輸血を受けた側なんだから、レシピエントとすべきじゃないのかな?

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