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2004.10.04

子猫をお願い

前から見たいと思っていた韓国映画、『子猫をお願い』の上映が京都でも始まって、先週、ようやく見にいくことができた。個人的に、今年のベストかもしれない。
舞台は、国際空港でその名を知られ、2002年の日韓共催サッカーW杯では会場の一つともなったソウル近郊の都市、仁川(インチョン)。主人公はそこの商業高校を卒業した仲良し5人組。卒業から1年、父親の経営する麦飯石サウナの店を手伝いつつ、四肢に障害のある詩人の詩のタイプのボランティアをするテヒ。ソウルの証券会社のOLとなったヘジュ。屋台で手作りのアクセサリーを売る中国系の双子のオンジョとピリュ。今にもくずれそうなバラックに祖父母と住み、デザイナーを夢見るジヨン。それぞれ、社会に一歩踏み出したとたんに直面するさまざまな現実。高校時代にはあれほど屈託なく仲のよかった彼女たちも、置かれた境遇の違いから、徐々に気持ちがすれ違い始める。とりわけ、底辺に近い暮らしを余儀なくされているジヨンと、上昇志向の強いヘジュの関係はきしみ始めていた。ヘジュの誕生日を祝って久しぶりに集まった5人。貧しいジヨンは、自分がひっそりとかくまっていた子猫をヘジュにプレゼントするが、後日、それはつき返されてしまう。2人の気持ちのずれに気づいて、必死になって修復しようとするテヒ。ヘジュにしても、一流企業に就職したとはいえ、商業高校卒という学歴ゆえに、職場の中では低い地位に甘んじなくてはならず、自分なりに生き残りの道を探していた。
終盤、ほとんど出口がないような悲惨な運命にさらされるジヨン。ジヨンの子猫は今度はテヒに託される。テヒ自身も、あまりに旧弊な父から逃れたい一心で家出を企て、子猫は双子のオンジョとピリュの元へ。ジヨンとテヒが自由を求め、自力で飛び立とうとするラストがまぶしい。
どこにでもいそうな等身大の女の子たち。大恋愛も華々しいサクセスストーリーもなく、日常の中でぶつかるさまざまな女の子の「闘い」を丹念に描く。誰もが必死で生きている。切なくなるくらいに。今の日本のドラマや映画にはないものがここにあるとしたら、それは、この生きることの切実さ、といったものかもしれない、と思う。
たしかに、職もなく、バラックに暮らすジヨンは、どうやって生計を立てているのか、あんなに貧しいのになんで新しい服を着てるのか、なんてところはあるけれど、バスの中の物売りとか、真夜中の鮮魚処理場で働くおばさんたちとか、そういった生活の断片の描き方がとってもリアル。そういうリアルな生活感がにじみ出ているがゆえに、彼女たちの存在もとても身近に感じられる。バラックに住むジヨンを訪ねてきたテヒにひたすら手作りの饅頭をさしだすジヨンの祖母。ヘジュに「英語ができるなら、夜学で学位を取ったら?」とステップアップの道を示唆する女性上司。主人公たち以外の女性の描き方にも監督の意図が感じられる。
そして、これは多くの人が指摘するところだけれど、映像の中にメールの文字を浮き出させたり、街中の電光掲示板、空港の発着便表示などを使ったりしたタイトルバックやエンディングのテキストの処理が実に鮮やかで、映像としてとても洗練されたセンスを感じる。流れるように画面に現れるハングルの文字を見ながら、ああ、これが読めて、意味がわかったらいいのになあと思った。監督のチョン・ジェウンはまだ30代の女性、こういう映画を作り出す韓国映画界のパワーと可能性に唸ってしまう。私も徐々に「韓流」に惹かれ始めているようです。(以下は蛇足です)

ところで、主要な役を演じた女優さんたちは、どこにでもいそうな女の子をじつに自然に演じていて、とても好感が持てた。夢見がちで思いやりがあり、しかしなかなか実行力もあるテヒを演じたペ・ドゥナは、私の知り合いのある人にちょっと似てる。異論も出そうだけど、ふとした表情に常盤貴子にもちょっと似てるところがある。『ほえる犬は噛まない』という映画にも出ていたらしい。ビデオになっていたら見てみたい。ヘジュを演じたイ・ヨウォンは、(これも異論がありそうですが)、若い頃の鷲尾いさ子に似てる。そして、ジヨンを演じたオク・ジヨン・・・こんな雰囲気の学生が前にいたな、なんてことを思う。一卵性双子のオンジョとピリュを演じたイ・ウンジュとイ・ウンシルは最後までどっちがどっちか区別がつかなかった。ちょっと、若い頃の福島敦子に似てませんでしたか?じゃあ、この双子は福島敦子・弓子の姉妹ってことにしよう・・・というのは冗談だけど。先日のイチローの最多安打記録達成の関連で弓子夫人もテレビに映りましたが。

若い女性たちが生き方を模索する群像劇といえば、今、上映されている『モナリザ・スマイル』もそうらしい。でも、韓国の商業高校の卒業生じゃなくて、ヒラリーも出たアメリカのエリート女子大のお話だからだいぶ違うな、きっと。むしろ、この映画を見ていて何となく思い出したのは、1999年夏の連続ドラマ『彼女たちの時代』。脚本は今や『ちゅらさん』で売れっ子になった岡田惠和、「彼女たち」を演じたのは、深津絵里、中山忍、水野美紀だった。それぞれ家庭環境も職場環境も違う彼女たちが、一緒に悩んだり、喜んだり、怒ったり。そこにリストラやらなにやら今日的な社会問題がからめられたり。今思い出してもいいドラマだったな。今は、たまに大河ドラマを見る以外は、まったくテレビドラマというものを見なくなってしまった私だけど。

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コメント

「子猫をお願い」、福岡での上映は11月以降のようです。
早く見たい!! とても楽しみです。
ハングル文字は規則性があるので、1週間もあればすべてのハングル文字を読めるようになりますよ。
ところで韓国人にはペットしとての「猫」は、日本ほど人気がないと聞きました。
目が光るのが気味が悪い、というのです。
韓国の大学で日本語を教えていた友人(日本人)も、ペットショップをのぞいたら、
猫用グッズをほとんど見かけなかった、と言ってました。
映画の中での「子猫」はどんな扱いなのでしょうね。

投稿: ごんふく | 2004.10.05 18:56

映画の中の子猫は可愛かったですけどね。韓国では人気ないのかー、ネコ。
ハングル、韓国に旅行したときはガイドブックと首っ引きで付け焼刃で覚えましたが(そうじゃないと切符も買えない、バスにも乗れない)、そういうのはいとも簡単に忘れてしまいますね。

投稿: EMY | 2004.10.06 14:54

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