真珠の耳飾りの少女
フェルメールのあまりにも有名なあの絵(日本で公開されたときのタイトルは「青いターバンの少女」)を題材にした映画。
窓から明かりの差しこむ質素な室内。漆喰の壁のくすんだ色調。もう、それだけで十分にフェルメールの世界だ。一気にフェルメールの生きた時代、絵の中の世界に吸い込まれる。テーブルの上で野菜を切る手が大写しになる。紫キャベツ、深紅のビーツ、オレンジ色のニンジンの鮮やかな色。スライスされた野菜が彩りよく大皿に並べられる。主人公の少女の優れた色彩感覚を暗示するシーンだ。
グリート(スカーレット・ヨハンソン)は、タイル職人の父が失明したため、画家のフェルメール(コリン・ファース)の家に使用人として奉公に出される。先輩の女性奉公人から仕事を教えられ、炊事、洗濯、買い物、掃除と休む間もなくこき使われる。このでっぷり太った使用人の女性もまた、フェルメールの絵に出てくる女性を思わせる。買い物の際、鮮度の落ちた肉を突き返したことがきっかけで、肉屋の息子ピーターに見初められるグリート。ここまでのグリートのイメージは、感覚の鋭敏なしっかり者といったところ。
フェルメール家は画家とその妻、妻の母、5人の子どもという大所帯。完璧主義の画家は、一作を仕上げるのに何ヶ月もかかるため、家計は火の車だ。妻の母はプロデューサーとしてパトロンから絵の注文を取る算段に余念がない。一方、高慢で世俗的な妻は絵にはたいして興味がない。掃除のために画家のアトリエに入ったグリートは描きかけの作品に見とれる。やがて、グリートのセンスに気づいた画家に絵の具の調合などの助手としての作業を任されるようになる。フェルメールは好色なパトロンの提案を退け、注文の絵とは別にグリートをモデルとした絵を家族には秘密で描き始める。グリートが使用人のつけている修道女のような帽子を脱ぐことを拒んだため、かわりに青いターバンを巻かせ、アクセントに妻の真珠の耳飾りをつけさせる。この耳飾りをつけるシーンがとても美しい。フェルメールの手で耳たぶに穴を穿たれ、真珠の耳飾りをつけてモデルをつとめたあと、グリートは夜の酒場に肉屋のピーターに会いに行く。なかなか象徴的なシーンだと思ったが、野暮な解釈はつけ加えないでおこう。やがて、なにかにつけてグリートにつらく当たっていたフェルメールの娘の告げ口で、グリートがモデルとなっていることが妻に知られてしまう。嫉妬に狂った妻はグリートを家から追い出す。実家に戻ったグリートのもとにフェルメールから小さな包みが届けられた。
グリートを演じたスカーレット・ヨハンソンが初々しい。ちょっと控えめなおずおずした娘がモデルとして一瞬の表情を永遠に残す。コリン・ファースは「外面は気むずかしいけれど、実は暖かみのある画家」というよりは、もともと暖かみのある人が無理して気むずかしいふりしてるという感じ。どんなにしかめっ面を作っても暖かさの方を強く感じさせる顔ですね。いえ、けなしているのではなく、だから、好きなんですけどね。妻の母の白塗りの顔もまたあの時代の肖像画から抜け出したよう。室内、運河、市場、酒場など、どのシーンも「絵になっている」。あの色調を再現した撮影の技術がすばらしい。ピーター・ウェーバー監督はこれが長編デビュー作だそうだけれど、美術、衣装、撮影のスタッフはグリーナウェイの映画を手がけてきた人たちが参加しているというのに妙に納得。
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Tracked on 2004.06.06 at 06:38 PM



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