« アブのハミングにジャンプ | Main | FUTON »

2004.03.23

旅行記でめぐる世界

友人の前川健一さんの本。
今回は、前川さん自身の旅行記ではなく、他人の書いた旅行記を紹介することで、戦後の日本人の海外体験というものをあぶり出す趣向。
まず、敗戦直後の海外渡航が自由化される前の段階から始まるのだけれど、国益に寄与すると見なされなければ海外に出られなかった時代、何という名目で海外に出たか、また、資金はどこから得たかというのをポイントに見るなど、目のつけどころがとてもいい。

高峰秀子の本のように題名だけは聞いたことのあるものや、近藤紘一らの本のように読んだことのある本もある。しかし、聞いたこともない珍本もあり、また記憶の隅にかすかに残る本もあって、まだ読んでないけど読んでみたくなる本がたくさん紹介されていた。それらの本をどんな理由で取り上げたか、また、前川さんがどう読んだかが書かれていて、それぞれのいい書評にもなっている。
「いい」といっても、誉めてある本ばかりではない。フィクションが入ってるとか、ゴーストライターが書いたんだろうと思われるような本はまだいい。外国(インドネシアとか、バングラデシュとかの発展途上国)の市場は臭い、汚い、人間の食べ物とは思えないなどと思って避けて通り、またナイーブにそれを書いてしまった本(書き手は大手商社員の妻とか、学者夫妻とか)も取り上げている。市場ほど面白いところはないと思っている私から見たら驚きだけれど、それが日本人の大多数の反応だそうだ。しかし、その学者ってたしかテレビや新聞でよく見かける政治学者ではなかったろうか。そういう感覚で国際政治を語っているのだね。
本の選び方や読み方から、何を面白いと思うか、という前川さんの感覚がよくわかるわけだが、同時に、その面白さの方向から、前川さんが実はとってもインテリ(いい意味でのね)であることがよくわかる。体力勝負の体育会系山登りとか踏破とかは好きじゃなくて、どんな些細なことでも自分の目でじっくり見て考えて書いたもの、いってみれば、旅に出る前からその人が持ち合わせていた素養が問われるようなもの。例を挙げれば、タイにおける山川惣一、インドにおける小熊英二、いずれも行く前からその国のことをよく知っていたり、文化について学んでいたりするわけではない。しかし、農民である山川はあくまでもプロの農民としての目でタイの農村を見るし、日本の近代思想史の専門家である小熊は、インドにいても日本の近代史の該博な知識からちゃんとインデックスがつけられる。あるいは、アマゾンで筏下りをする植村直己への共感。何にも縛られない、ただ、行きたいから行くという旅への憧憬。インターネット上に膨大な個人の旅行体験記が存在する時代。誰でも「行った、見た、書いた」ということはできるけれど、読むべきものは少ない。この本は、そんな旅情報のあふれる現代でも、読むに価するものはこういうところにあるよと、道しるべを示してくれる。旅慣れた案内人に誘われて、ここにあげられた本が読みたくなる。そして、また旅に出たくなる本でもあるのだった。

|

« アブのハミングにジャンプ | Main | FUTON »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/5103/434796

Listed below are links to weblogs that reference 旅行記でめぐる世界:

» 『旅行記でめぐる世界』前川健一 [WishList]
2003年2月 文藝春秋 720円+税 256頁/新書これまたEMYさんの書評をきっかけに。 旅をした人は語りたくなるものである。ネットにもものすごい数の旅行記サイトがあるし(実は私も書いてますが)、しかしそう... [Read More]

Tracked on 2005.10.19 at 04:42 AM

« アブのハミングにジャンプ | Main | FUTON »