あいつの声
パク・チンピョ監督2007年の作品。
韓国で1990年代に実際に起こった未解決の営利誘拐殺人事件に基づいた社会派ドラマ。
9歳の少年が誘拐され、身代金を要求する脅迫電話が両親にかかってくる。87回にもわたる脅迫電話、2億ウォンの現金の授受が行われたにもかかわらず、警察は手も足も出ず、犯人はわからずじまい。被害者の少年は無残な遺体となって発見されたという悲惨な事件は、その後、未解決のまま時効を迎えてしまう。
映画は被害者の両親の設定を人気ニュースキャスターとその妻とし、そのキャスターをソル・ギョング、妻をキム・ナムジュが演じている。
救いのない悲劇であるという事件の結果を知っていて見る2時間はつらく、何一つ効果的な手を打つことのできない被害者側の身になるともどかしいことこの上ない。90年代の科学捜査とはこの程度だったのかとも思うが、捜査に当たる刑事たちの愚鈍さを強調したような描き方だったりする。こんな事件を題材に、どこにクライマックスを持ってくるのだろうかと思っていたら、それはエンディングの直前のキャスターの慟哭の独白にあった。この熱演のために、主人公の設定をキャスターにし、ソル・ギョングがキャスティングされたのだといっても過言ではない。やつれて頬がこけた感じを出すために、何日か絶食して撮影に臨んだという。このシーン、このセリフに監督の全ての思いが込められていると思った。この映画では、捜査班の刑事役に個性的な俳優が多数出演。パク・チンピョ監督の「私の愛、私のそばに」に出ていた人も多い。でも、刑事としては失笑を買うような無能な人たちばかりで、重苦しいこの映画の中でコメディ部門を一手に引き受けていた。これでは、韓国の国民はますます警察なんか頼りにならないと思うのではないか。
エンディングには、実際の事件での犯人の声、捜査時の指名手配の似顔絵、被害者の少年の納骨堂の映像と、事件の経緯についての字幕が流れる。時効となってしまったが、それでも、いままだどこかにいるに違いない犯人を捜し出してやるという意思に満ちた映画であり、被害者とその家族だけでなく、国民全体がこの事件に対する怒り、悲しみを忘れはしないという鎮魂と告発の映画なのだった。
韓国では、こういった実際にあった凶悪犯罪を映画化することが続いているようで、昨年は、やはり子どもが犠牲になり、未解決の「カエル少年事件」をもとに「子どもたち」という映画が作られた。また、現在、韓国で上映中の「るつぼ」という映画も、実際にあった聾学校での教師の性的虐待事件が元になっている(原作者は「サイの角のようにひとり行け」のコン・ジヨン)。「あいつの声」も200万人動員のヒット作、今回の「るつぼ」も公開直後に100万を超える大ヒットというが、こういう映画が100万人以上の観客を動員するというのは、日本ではあまり考えられないのではないかな。

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